万年筆さん

恋人のこと
生まれて初めて、万年筆をくれた人がいました。

私はまだ小4で使い方もしりませんでした。

万年筆をくれたので、その人のことを「万年筆さん」と呼びます。



万年筆さんは、優しくて、強い人でした。

ちょっと情けなかったけど(笑)

迷ってる時、いつもアドバイスをくれるんです。

でも、答えは明かさないので、正解は自分でみつける。

きっと万年筆さんは、私の人生のメンターなんでしょう。



私が小説に興味を持つきっかけを作ったのは、彼です。

私が将来の夢を決めたのも、彼に憧れたから。

優しい人になりたいと思えたのも、彼が居たから。



彼に夢中になってからは、彼のボロいアパートに毎日通いました。

放課後サッカーをするという日課は、彼のせいでめちゃくちゃです。



万年筆さんの買い物に付き合えば、2ケツで坂を物凄いスピードで降りれます。

めっちゃ楽しかったです。(帰りは地獄)



いつの間にか万年筆さんは、私の初恋になっていました。

薄氷がパリッて音を立てて割れるみたいに、万年筆さんは居なくなりました。



私が高校2年の夏でした。

机の上に置手紙がありました。


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長いトンネルの向こうに行きます。君は追いかけて来てはいけない。

もし、辛くなった時は、多分僕も同じで辛い。

君が思ってるより僕は君が大好きだから。

君に初めて万年筆をあげた男より



PS・君の初恋は、叶ったよ。

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万年筆さんは全部御見通しだったみたいです。

私の恋心も。

スーザン・バーレイの「忘れられないおくりもの」が大好きだったということも。



忘れられないおくりものに登場するアナグマは、亡くなる時、置手紙を残します。


長いトンネルの向こうにいきます。 


と。



後で知りましたが、万年筆さんは白血病でした。


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万年筆さんへ



亡くなったんだから、貴方がこの手紙を読むことはないんでしょうね。

けど、なんか今私の傍らに気配を感じる(笑)

だから、読んでくれてると思っておくね。

私、小説家になったよ。

貴方に出会わなければ、小説なんて嫌いなままだった。

貴方に出会わなければ、愛を知らない子のままだった。

貴方に出会って、色んなことが分かった。

世界が綺麗だってことも、私は幸せだっていうことも。

私はきっと、お母さんになって、おばさんになって、おばあちゃんになるんでしょう。

天国か地獄選べって言われたら、そりゃあ天国だけど、

貴方が地獄に居るなら、地獄も悪くなさそう。

小説家なんだから、もっとボキャブラリーあるだろとか言われそうだけど、

めんどくさいなぁ(笑)

ありがとう

に全部のせするよ。伝わると思うから。

貴方に初めて万年筆を貰った女より

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