僕には祖母がいる。

祖父は僕が生まれる前に亡くなった。

だから、祖母は大変だったらしい。

祖父は保険に入っておらず、残されたのは煙草畑と田んぼと仔牛くらいだった。

そこから女でひとつで僕の父と叔母を育てた。

僕は初孫でとても可愛かったらしく、祖母に怒られた記憶はない。

僕の両親は共働きで、祖母は畑仕事をしながら僕の面倒をみた。

小さいときに煙草の葉を食べてしまい倒れてしまった僕をおぶって病院に連れていってくれた。

足を怪我して入院した時は一緒に泊まってくれた。

お腹を下して、帰宅途中で大きい方を漏らしてしまった時も「男なら泣くんでねぇ」と風呂場で洗いながら、お尻を叩いて叱咤してくれた。

15時のおやつの時間、お腹か減ると味噌焼きおにぎりを握ってくれた。

大きく握ったおにぎりに味噌を満遍なく塗って、フライパンで焼くだけだ。

正直に行って特別に美味しいわけではない。

他にも美味しい料理がいっぱいあるだろう。

でも、テーブルにあれば不思議と手が伸びて、口に運んでしまう。

僕は大きな味噌焼きおにぎりを口に頬張って、手についた味噌をぺろりと嘗めて、外に遊びに出た。

そして、僕は成長した。

家族で、最初に、田舎を出て東京に行きたい、と祖母に伝えた。

「んだかぁ……」

と寂しそうに言った。

本当は行って欲しくはないが、自分がワガママを言って孫の夢を壊してはならない、と感情を腹の中に押し込んだような表情をしていた。

僕は東京に出てから、年に数回、実家に帰っている。

青空と山部の緑。

虫の鳴き声。

ゆったりと流れる時間。

故郷の方言。

土のにおい。

けぇったかぁ~と満面の笑みを浮かべる祖母。

実家には弟夫婦が住んでおり、祖母にとってのひ孫がいる。

「ひっこ~、おにぎり作って」

とひ孫。

祖母は爪に土が入った手でおにぎりを握る。

子供たちには衛生的に良くない。

でも、歳をとり、爪の間までしっかり洗えない祖母が、一生懸命、ゆったりと時間をかけて作る味噌焼きおにぎりを否定する気にはなれない。

「おんちゃ(僕のこと)の分も作ったじゃ。食うべ?」

と大きな味噌焼きおにぎりを手渡す。

畑仕事で腰が曲がった祖母。

しわくちゃの手。

僕が東京に行ったあと、家族の前で、おいおいと、初めて大声で泣いた祖母。

「食うかな」

味とか、衛生面とか関係ない。

それ以上のものが詰まっている。

ばさま、いつもありがとう。

また味噌焼きおにぎりを作ってください。

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