お父さん、二十歳の誕生日プレゼント本当にありがとう

父親のこと
二十歳の誕生日に、父から腕時計をプレゼントされました。

渡すとき、少し自慢げな表情だったのを覚えています。

私は、夏生まれなんですよ。

翌日から、友人と海水浴の予定が入っていたんです。

さっそく付けていきました。

後から考えれば、置いていけばよかったとさんざん後悔しました。

荷物の中に入れたまま海岸に置いて海に入ってしまったんですよ。

少したって戻ってみたら、時計がありません。

盗難されたとしか考えようがありません。

悪い人がいるものです。

私も迂闊でしたが。

一週間くらいはなんとかごまかしていましたが、ついに父から問い詰められてしまいました。

しかし、時計がないことを疑われたわけではないんです。

旅行から帰ってきて以来、暗いし食欲もないしで、様子がおかしいと。

昔の二十歳なんて子供みたいなものですから、ずっぽりと親の庇護のなかにいるのですよ。

しっかり守ってもらっていました。

ようするに、旅先で何らかのトラブルに巻き込まれたのではないかと考えたようです。

まあ、二十歳の女の子ですからレイプとかそんなことでしょう。

そこまで言われれば、私も白状しないわけにはいかなくて、洗いざらいしゃべって自分の不注意を謝罪しました。

案に反して怒られなかったんですよ。

盗まれた話をしたときは、少し寂しそうな表情はしたのは覚えています。

「そうか、仕方ないな。とにかく、お前が無事だったのがなによりだ」

こんな言葉で、この一件は落着してしまいました。

しばらくたった頃、母から聞いたところによると、その時計は日本のメーカーのものでしたが、グレードとしては最高ランクのもので、大変に高価なものだったそうです。

とにかく、娘の二十歳の誕生日ということで、随分前から準備していたようなのです。

怖い父でしたが、私は愛されていたんですよ。

後悔したし、泣きました。

そんなプレゼントを、たった一日の命にしてしまった私の罪は深いです。

今は、父が最後まで使っていた形見の腕時計を愛用しています。

あらためて言います。

お父さん、二十歳の誕生日プレゼント本当にありがとう。

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