あなたの父親が生活保護を申請しています

父親のこと
両親は自分が幼い頃に離婚して、母が昼も夜も働いて私と兄を育ててくれました。

子供の頃に数回ほど会っていた父は、突然どこかに引越してしまい、唯一の連絡手段だった

携帯電話も解約され連絡が一切とれず、所在も生死も判らない状態に。

子供には甘い父親でしたが、実際は酒ギャンブル借金当たり前。

その上、離婚後は母に養育費を一度も払わず逃げたりした父を、私はあまり信用しきれず育ちました。

そして行方が知れなくなって10年近く経ち、遠く離れた県から手紙が届きました。

内容は

「あなたの父親が生活保護を申請しています。ですが出来たらあなたたち家族で養えませんか?」

というお役所(うろ覚え)からのもの。

ようやく父の所在が判った事、それに父が生活保護を申請していたことに驚きました。

ですが我が家も借金があり金銭的にも余裕が無いのと

「養育費さえ払ってもらえてたら母も、借金を作らずに済んだのに!」

というドロドロした思い、自分が幼い頃に父に言われた言葉に騙されて、傷ついて、長い間苦しんできた事もあり、非情かと思いつつ

「養えません」

と、手紙を返送しました。

兄の元へも同じ手紙がいっており、父と暮らしたがった兄も、既に結婚しており今の生活にいっぱいいっぱいで、金銭に余裕が無いので断念。

でも兄は手紙を返送する際、「何かあったら連絡ください」と携帯の番号を追記してました。

その数日後、兄の電話に入った連絡は父の訃報でした。

もう既に父の遺体は、父の親戚に引き取られて葬儀も済まされており、

私達家族がその親戚宅に訪れた時、最近の父の事を聞きました。

私たちがあの手紙を受け取った時、父は末期ガンで入院していたこと。

大好きだったタバコも買えないくらいお金に困っていたこと。

ガンが進行してもう目が見えなくなっていたこと。

病床で「子供たちに会いたい」と言っていたこと。

知らなかった。

もっと早く知りたかった。

過去のことにこだわってもう2度と会えなくなるなんて、自分は馬鹿だ。

せめて何かしてあげたかった。

本当に馬鹿だ。

馬鹿だ。

兄は号泣していました。

訃報が届かなければ、その数日後の週末に、妻と子供を連れて父に会いに行く予定だった

と、涙ながらに語っていました。

父に、俺の家族を、孫を、見せてあげたかったと…。

母も泣いていました。でも私は…心が乾いて泣けませんでした。

ぼんやりと魂が抜けたみたいに過ごし、その晩風呂に入って色んな事を思い出してました。

両親が離婚した後、兄妹で父の所に泊まりに行った時に食べきれないくらい夕飯を作ってくれて、にこにこしながら「いっぱい食べろ」と言ってた父。

親戚の所で見せてもらった、記憶の中の面影を残した数年前の写真の父。

思い出してたら、いつのまにか風呂場で嗚咽を漏らして泣いてた。

どうしても止まらず数十分ほど、ただ泣いてた。

家族も気づいたろうな。

父に何もしてやれなかったことを思うと、今でもせつなくてたまらない。

私は幼い頃からの夢だった職業に就けたこと、

兄に可愛い子供たちがいること、

あなたが会いたがっていた子供たちの未来を、

せめて伝えたかったな。

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